この記事の要点
- 経済産業省は2026年6月2日、2022年8月策定の「蓄電池産業戦略」を約4年ぶりに改訂し、「蓄電池・電源産業戦略」として第8回蓄電池産業戦略推進会議で公表した。戦略名に「電源」が加わり、蓄電池を中心とした電源システムが国の産業戦略の軸に据えられた。
- 系統用蓄電池の導入補助金や長期脱炭素電源オークション等で、安全性に関する規格・基準等に基づく「第三者による適合性証明」の取得を要件とする方向が明記された。事故事例・対策の提出、サイバーセキュリティ対策、サプライチェーンの供給途絶リスク対策も事業者に求められる。
- 背景には系統用蓄電池の急増がある。接続(契約)申込み量は全国(沖縄エリア除く)で約2,400万kW(2025年9月末時点)と、前年同月比約3.9倍に達した(資源エネルギー庁)。
- 戦略自体は改訂・公表済みだが、これは方向性を示す政策文書であり、補助金公募要領・オークション募集要綱といった個別制度への要件の落とし込みはこれからである。ただしサイバー要件は、第3回長期脱炭素電源オークションでJC-STAR証憑の提出が既に要件化されるなど、実装が先行して動いている。
- 要件の確定を待ってから動くのではなく、機器調達・設計の段階で安全認証とセキュリティ適合を織り込むことが、補助金・オークション活用でも純市場運用でも有利に働く。
何が起きたのか——「蓄電池産業戦略」から「蓄電池・電源産業戦略」へ
経済産業省は2026年6月2日、第8回蓄電池産業戦略推進会議において、2022年8月に策定した「蓄電池産業戦略」を約4年ぶりに改訂し、「蓄電池・電源産業戦略」として公表した。
最初に押さえておきたいのは、この文書の性格である。戦略自体は既に改訂・公表済みである(経済産業省のプレスリリースも「改訂しました」と完了形で公表している)。一方で、これは国の産業戦略、すなわち方向性を示す政策文書であり、補助金の公募要領や長期脱炭素電源オークションの募集要綱といった個別制度の確定した改定ではない。「戦略の方向は確定したが、個別制度への落とし込みはこれから」という段階として読むのが正確である。
では何が変わったのか。最大の変化は戦略名に「電源」が加わったことである。改訂の柱は、エネルギー密度(容量)に加えパワー密度(出力)など多角的な競争軸を念頭に、電池セル単体ではなく「蓄電池を中心とした電源システム」全体で製造基盤を確立するという、対象範囲の拡大にある。背景としては、グローバル市場における過剰供給構造やサプライチェーンリスクの顕在化、AIデータセンターや医療・防災分野で求められる高度な電気制御ニーズへの対応が挙げられている。
なお、「蓄電池が今回初めて電源として扱われるようになった」と読むのは正確ではない。系統用蓄電池は既に長期脱炭素電源オークションで脱炭素電源として応札可能であり、一定規模以上の系統用蓄電池は電気事業法上も発電事業として扱われている。今回の意味は、国の産業戦略の軸に「蓄電池を中心とした電源システム」が据えられたという、位置づけの変化である。
製造側の数値目標も併せて見直された。国内製造基盤150GWh/年の確立時期は従来の「遅くとも2030年」から「2030年〜2030年代半ば」へ後ろ倒しされ、蓄電池セルを製造する日本企業の蓄電池関連売上高を2025年から2035年に3倍(報道によれば約5兆円規模)に成長させる目標、全固体電池を2030年頃に本格実用化する目標が掲げられている。
ただし本記事の関心は製造側ではない。MW級の系統用蓄電所を保有・計画するオーナーにとって実務に直結するのは、戦略に書き込まれた「導入・運用側への要件」である。以下で順に見ていく。
背景の数字——接続申込みは約2,400万kW、前年同月比約3.9倍
今回の改訂の背景には、系統用蓄電池の接続申込みの急増がある。資源エネルギー庁の次世代電力系統ワーキンググループ資料(2026年2月9日)によれば、系統用蓄電池の接続(契約)申込み量は、全国(沖縄エリアを除く)で2025年9月末時点 約2,400万kWに達し、前年同月比 約3.9倍となった。