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需給調整市場の上限価格(報価上限):商品区分別のFY2026値と今後の見直し論点

Balancing Market Price Caps (Bid Ceilings): FY2026 Values by Product and the Ongoing Review

需給調整市場の上限価格(報価上限)は応札単価の天井で、約定価格でも受取額でもない。FY2026の公開値は複合・一次・二次①が15、二次②・三次①が7.21、三次②は上限なし(円/ΔkW・30分、2026/02/05公表)。実需給2週間前公開・超過約定の差額返還・本格運用後の見直し論点まで、当社が一次

公開日: 2026/6/25更新日: 2026/6/25

CONTENTS

  1. この記事の要点
  2. 一文要約
  3. 上限価格(報価上限)とは何か
  4. 単位「円/ΔkW・30分」の読み方
  5. FY2026の商品区分別の公開値
  6. 上限価格はいつ公開されるか
  7. 約定価格はどう決まるか — マルチプライスとメリットオーダー
  8. 上限を超えて約定した場合 — 差額の返還
  9. 商品区分ごとに天井が違うことの実務的な意味
  10. 上限価格は今後見直されるか — 審議中の継続論点
  11. 上限価格を扱うときに避けたい誤解
  12. まとめ
  13. 参考文献
  14. よくある質問

この記事の要点

  • 上限価格(報価上限)は応札してよい単価の天井であって、約定価格でも受取額でもない。約定価はマルチプライス方式とメリットオーダーで別に決まる。
  • FY2026の公開値(2026年2月5日時点)は、複合・一次・二次①が15、二次②・三次①が7.21、三次②は上限なし。単位はいずれも円/ΔkW・30分。
  • 上限価格は市場運営者(EPRX)が商品区分別に定め、実需給の2週間前までに公開する。
  • 万一上限を超えて約定した場合は差額が返還され、上限を適用した後の単価で精算する。天井を超えた受取りは残らない設計になっている。
  • 上限価格の水準が本格運用後も適切かを点検・見直す議論は、資源エネルギー庁・OCCTOの制度検討の論点として続いており、改定はまだ確定していない。

一文要約

上限価格(報価上限)は需給調整市場で応札してよい単価の天井で、市場運営者が商品区分別に定め、実需給の2週間前までに公開する。FY2026の公開値(2026年2月5日時点)は、複合・一次・二次①が15、二次②・三次①が7.21、三次②は上限なし(単位は円/ΔkW・30分)。これは約定価格そのものではなく、約定価はマルチプライス方式とメリットオーダー(安い順の積み上げ)で別に決まるため、上限価格を受取額と読み替えると収支の見立てを誤る。万一上限を超えて約定した場合は差額が返還され、上限を適用した後の単価で精算する。本格運用後の見直し論点は審議中であり、確定した改定ではない。

上限価格(報価上限)とは何か

需給調整市場では、応札してよい単価に商品区分別の天井が設けられている。これを上限価格、または報価上限と呼ぶ。市場運営者である一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)が商品区分ごとに値を定め、実需給の2週間前までに公開する。応札する事業者は、この天井を超える単価を出すことができない。

上限価格が設けられている狙いは、市場支配力の行使や価格の急騰を抑えることにある。需給調整市場は、調達できる調整力(ΔkW)の量が一時的に限られる局面が生じやすい。供給が細った瞬間に応札単価を青天井で吊り上げられれば、本来あるべき水準を大きく超えた費用が消費者側に跳ね返る。商品区分別の天井は、その歯止めとして働く。

ここで実務上もっとも誤解されやすいのが、上限価格と約定価格・受取額の関係である。上限価格は、あくまで「ここまでなら応札してよい」という入札単価の上限であって、「実際にいくら受け取れるか」を示す数字ではない。約定でいくらの単価が付くかは、後述するマルチプライス方式とメリットオーダーによって市場が別に決める。この区別を取り違えて上限価格をそのまま受取額と読むと、収支の前提が大きくずれる。

需給調整市場の上限価格(報価上限):|図1

なお、本記事で扱う商品区分別の値・公開タイミング・超過約定時の取扱いは、2026年7月1日に効力を持つEPRX取引ガイド(全商品)第10版と取引規程ver.18にもとづく。値は年度などで改定されうるため、応札の前には必ずEPRX公式で最新値を確かめる必要がある。

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よくある質問

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単位「円/ΔkW・30分」の読み方

上限価格の単位は円/ΔkW・30分である。需給調整市場の取引が30分のコマ(スロット)単位で動くことに対応している。ΔkW(デルタキロワット)は、出力をどれだけ上下に動かせるか、その調整できる幅を指す。たとえば「ΔkW」で1,000kWを供出するとは、指令に応じて出力を1,000kW分動かせる能力を市場に差し出すという意味になる。

したがって上限価格を「円/ΔkW・30分」で読むと、「調整できる幅1kWあたり、30分のコマあたりで応札してよい単価の上限」を表している。容量市場の「円/kW・年」のように年あたりではなく、また小売市場のスポット価格の「円/kWh」のように電力量あたりでもない。需給調整市場の上限価格は、あくまで「調整できる能力(ΔkW)を、30分のコマ単位で確保するための単価」の天井である点を押さえておきたい。

この単位の違いは、他市場の数字と並べて比較するときに混乱の元になりやすい。容量市場の約定価格、JEPXスポットの卸価格、需給調整市場の上限価格は、いずれも「円」が付くが、対象も単位も役割もまったく異なる。需給調整市場の上限価格はΔkW(能力)×30分(時間コマ)に対する天井であり、他市場の指標とは別物として扱う。

FY2026の商品区分別の公開値

FY2026の上限価格は2026年2月5日に公表された。商品区分ごとに天井が異なり、応動の速さや専用線の要否といった商品の性格に応じて段階が付いている。EPRX取引ガイド第10版および取引規程ver.18にもとづく公開値は次のとおりである(単位はいずれも円/ΔkW・30分)。

商品区分FY2026 上限価格
複合(一次〜三次①)15
一次調整力15
二次調整力①15
二次調整力②7.21
三次調整力①7.21
三次調整力②上限なし

複合とは、一次から三次①までの複数商品の要件を同時に満たす供出を一括で扱う区分を指す。表のとおり、複合・一次・二次①の3区分が15で並び、二次②・三次①が7.21、そして三次②には上限が設けられていない。

需給調整市場の上限価格(報価上限):|図2

この階段状の設計には、商品ごとの性格が反映されている。一次・二次①は応動が速く、専用線によるオンライン接続を前提とする速応性の高い商品で、天井が15と高めに置かれている。一方、二次②・三次①は相対的に応動条件がゆるみ、天井も7.21に下がる。そして応動が最もゆるやかな三次②には上限が設けられていない。

三次②に上限がないのは、価格規律をゆるめた設計になっているという点で注目に値する。応動が最もゆるく、簡易指令システムでも参入できる三次②は、系統用蓄電池がまず狙いやすい商品とされる(当社による解説)。その商品で天井がないということは、応札単価の設計自由度が他商品より広い一方、価格がどう振れるかは市場の積み上がり方しだいで決まることを意味する。三次②の入札の流れそのものについては、関連記事「三次調整力②の入札はこう動く:前日完結・最低1,000kW・上限価格以下の応札」で詳しく扱っている。

ここに挙げた値はFY2026の公開値であり、年度などで改定されうる。最新値は必ずEPRX公式(取引情報の上限価格ページ)で確認してから応札を組み立てる。

上限価格はいつ公開されるか

上限価格は、実需給の2週間前までに商品区分別に公開される。実需給とは、その調整力が実際に使われる対象期間を指す。応札する事業者は、対象となるコマの実需給日からさかのぼって2週間前までに公開された上限価格を見て、その天井の範囲内で応札単価を設計する。

この「2週間前公開」というタイミングは、応札判断のスケジュールに直結する。三次②のように入札が前日のうちに完結する商品であっても、適用される上限価格そのものは実需給の2週間前までに分かっている。つまり、当日の入札オペレーションに入る前の段階で、その期間に適用される天井はすでに確定情報として手元にある、という整理になる。

需給調整市場の上限価格(報価上限):|図3

実務では、この公開値を入札判断のたびに参照する運用を定例化しておくのが堅い。年度をまたぐ局面や制度改定の局面では値が変わりうるため、「前回と同じはず」と前提を固定したまま応札すると、改定後の天井を見落とすリスクがある。応札のたびに最新の公開値を確かめる手順を、入札フローの先頭に組み込んでおくとよい。

約定価格はどう決まるか — マルチプライスとメリットオーダー

上限価格と約定価格を分けて理解するうえで欠かせないのが、約定の決まり方である。需給調整市場の約定は、マルチプライス方式とメリットオーダーで決まる。

メリットオーダーとは、応札を安い順に並べて積み上げ、必要な調達量に届くところまで採用していく仕組みである。需要側(一般送配電事業者が調達したい量)に対し、安い応札から順に約定させ、必要量を満たした時点で線が引かれる。安く出した応札ほど採用されやすく、高く出した応札は採用されにくい、という基本構造になる。

マルチプライス方式とは、約定した各応札に対して、それぞれが応札した単価で精算する方式を指す。全員が同じ単価(限界価格)で精算するシングルプライス方式とは異なり、マルチプライスでは応札単価がそのまま約定単価になる。

この2つを合わせて考えると、上限価格が「受取額」ではないことがはっきりする。上限価格は応札してよい天井にすぎず、実際にいくらで約定するかは、自社がいくらで応札したか、そして他社の応札がどう積み上がって需要量に届いたかで決まる。天井いっぱいの単価で応札しても、メリットオーダーの線の外に出れば約定しない。逆に天井より低い単価で応札すれば、その低い単価が約定単価になる。上限価格をそのまま受取額と読み替えると、この市場メカニズムを丸ごと見落とすことになる。

需給調整市場の上限価格(報価上限):|図4

上限を超えて約定した場合 — 差額の返還

応札単価には商品区分別の天井があるため、通常は上限を超えた約定は生じない。ただし制度上は、万一上限価格を超えて約定が成立した場合の取扱いが定められている。EPRX取引規程ver.18にもとづけば、上限を超えて約定した場合は差額を返還し、上限を適用した後の単価で精算する。

つまり、何らかの理由で天井を超える約定が成立しても、超過分はそのまま受け取れるわけではない。超えた差額は返還され、最終的には上限価格を適用した単価に引き戻されて精算される。天井を超えた受取りは残らない設計、と整理できる。

実務上の含意は、精算ロジックの設計にある。自社の収支シミュレーションや精算処理を組むとき、「上限超過時は差額返還・上限適用後単価で精算」という挙動を織り込んでおく必要がある。これを見落とすと、超過約定が起きた局面で受取額の見込みが過大になる。市場の評価・ペナルティの全体像については、関連記事「需給調整市場のアセスメントとペナルティ」も合わせて参照されたい。

商品区分ごとに天井が違うことの実務的な意味

上限価格が商品区分別に異なることは、どの商品にどう応札するかという設計判断に効いてくる。

一次・二次①は天井が15と高い反面、専用線によるオンライン接続が前提となり、参入の初期投資の壁が高い。二次①が簡易指令システムでは参入できず専用線が必要になる点は、関連記事「二次調整力①は専用線オンライン前提」で詳しく扱っている。天井が高いからといって、その商品が無条件に有利というわけではない。応動精度・通信方式・初期投資といった要件と、天井の高さは別の軸として評価する必要がある。

二次②・三次①は天井が7.21に下がるが、応動条件は相対的にゆるむ。そして三次②は天井がなく、簡易指令システムで参入でき、系統用蓄電池がまず狙いやすい商品とされる(当社による解説)。天井の有無・高さだけを見て応札商品を選ぶのではなく、自社設備の応動性能・通信方式・供出可能量・参入コストと突き合わせて、どの商品の天井の範囲内で、どの単価で応札するかを設計する。これが商品区分別上限価格の実務的な読み方になる。

需給調整市場への蓄電池の参入を事業として検討する際は、こうした商品区分ごとの要件と天井の関係を、自社案件の前提に落とし込んで整理する作業が要となる。LehmanSoft Japanは、系統用蓄電池アグリゲーションを中核業務として、需給調整市場・容量市場・卸電力市場をまたいだ運用設計を提供している。応札単価の設計や収支の見立てを自社案件で具体的に検討する段階では、収益シミュレーターで前提を置きながら試算するのも一つの方法である。

上限価格は今後見直されるか — 審議中の継続論点

ここまではFY2026の確定値とその取扱いを述べてきた。これとは区別して押さえておきたいのが、上限価格の水準そのものを今後見直すかどうか、という継続論点である。これは確定した改定ではなく、審議中の論点である点を明確にしておきたい。

需給調整市場は2021年度に三次調整力②から始まり、2024年度までに一次・二次①②・三次①②の5商品がそろった。市場が本格運用に入ったことを踏まえ、上限価格の水準が実際の運用に照らして適切かを点検・見直す議論が、制度検討の論点として続いている。現行は15円水準が議論の起点とされるが、運用後の実データを踏まえてこの水準を見直すべきかどうかが論点になっている。

需給調整市場の上限価格(報価上限):|図5

重要なのは、この見直し論点が現時点で確定事項ではないことである。施行時期も具体的な改定内容もまだ決まっておらず、資源エネルギー庁・OCCTOの制度検討の場で議論が進む段階にある。したがって、上限価格の見直しを前提に収支の前提を動かすのは時期尚早であり、あくまで「今後の公表を注視すべき継続論点」として位置づけるのが正しい。

実務的には、収支の前提を固定しすぎないことと、制度検討の公表資料を定期的に確かめることの2点に尽きる。上限価格の見直しが確定したかのように前提を組み替えるのではなく、現行の確定値で設計しつつ、資源エネルギー庁の制度検討作業部会の公表資料を継続して見張り、改定の兆しを早めに把握できる体制を整えておく。審議中の論点と確定事項を混同しないことが、この継続論点との正しい向き合い方になる。

上限価格を扱うときに避けたい誤解

上限価格をめぐっては、実務でつまずきやすい読み違いがいくつかある。当社による整理として、主な誤解と正しい読み方を表にまとめる。

よくある誤解正しい読み方
上限価格=受取額上限価格は応札の天井。約定価はメリットオーダーで別に決まる
天井が高い商品ほど有利天井の高さと応動要件・専用線・初期投資は別の軸
三次②は上限なしだから高く出せば得上限はないが約定はメリットオーダー。高すぎれば約定しない
値は固定年度などで改定されうる。実需給2週間前公開値を都度確認
見直しはもう決まっている見直しは審議中の継続論点で確定事項ではない

これらの誤解の根は、いずれも「上限価格を約定の世界の数字と混同すること」にある。上限価格は応札の入口に立つ天井であり、約定の出口で決まる単価とは別の層にある。この層の違いを意識して数字を扱えば、収支の見立てを大きく外すことは避けられる。

まとめ

需給調整市場の上限価格(報価上限)は、応札してよい単価の天井であって、約定価格でも受取額でもない。FY2026の公開値は商品区分別に階段状で、複合・一次・二次①が15、二次②・三次①が7.21、三次②は上限なし(円/ΔkW・30分、2026年2月5日時点)。この天井の理解を誤って受取額と読み替えると、収支の前提が根本から狂う。実務で押さえるべきは次の3点である。

  1. 入札前にEPRX公式で商品区分別の上限価格の最新値を確かめ、応札単価がその天井以下に収まるよう設計する。
  2. 上限価格を約定価・受取額と混同せず、約定はマルチプライス方式とメリットオーダーで市場が決める前提で収支を見立てる。上限超過時の差額返還・上限適用後単価での精算も精算ロジックに織り込む。
  3. 上限価格の見直しは審議中の継続論点であり確定事項ではないと前提に置き、収支の前提を固定しすぎず、資源エネルギー庁・OCCTOの制度検討の公表資料を定期的に確かめる。

自社案件で需給調整市場への参入を具体的に検討する段階では、収益シミュレーターで前提を置きながら概算を試算したうえで、系統用蓄電池アグリゲーション業務ページから具体的な事業組成の相談を進めるのが、迷いの少ない進め方になる。

参考文献

  1. 一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)取引ガイド(全商品)第10版(2026年7月1日施行、§2-4/§2-5/§2-11)(https://www.eprx.or.jp/outline/docs/guide_ver.10_260701.pdf)
  2. 一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)取引規程 ver.18(2026年7月1日施行、該当条項。条番号は規程本文で要確認)(https://www.eprx.or.jp/outline/docs/kitei_ver.18_260701.pdf)
  3. 一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)取引情報「上限価格」(https://www.eprx.or.jp/information/post.php)
  4. 一般社団法人電力需給調整力取引所(EPRX)需給調整市場かいせつ資料 第2版(2026年4月1日)(https://www.eprx.or.jp/outline/docs/kaisetsu_ver.2_20260401.pdf)
  5. 資源エネルギー庁 電力安定供給ワーキンググループ 資料8(2026年5月13日)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/stable_power_supply_wg/pdf/001_08_00.pdf)
  6. 資源エネルギー庁 制度検討作業部会(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/)

本記事は2026年6月24日時点の公開情報に基づき作成された。制度・上限価格・取引規程は予告なく変更される場合があるため、実応札・投資判断にあたっては最新の一次情報および専門家への相談を推奨する。本記事は当社による解説であり、特定の収益・利回りを保証するものではない。